「霊妙なエネルギーたち――科学史と宗教社会学の視点から」
日時:2015年3月13日(金)午後1時半~午後5時頃
会場:東京大学本郷キャンパス教育学部2階213室
報告①:平野直子(早稲田大学)「プラナ、オーラ、霊気とお手当て――1920-30年代「精神療法」のなかの臼井霊気療法――」
報告②:中尾麻伊香(慶應大学)「放射線研究とスピリチュアリズム――ラジウムの解釈を中心に」
コメント: 奥村大介(慶應大学)
司会: 吉永進一(舞鶴高専)
2014年度第2回研究会では、霊術/精神療法などでしばしば見られる「生命エネルギー」についての宗教社会学からの報告と、同時代における放射線(ラジウム)に関する言説の科学史的分析からの報告が行われ、両者をつなぐ観点について司会とコメンテーターから重要な指摘が行なわれた。冒頭で司会が示したように、たとえばハネフラーフの「オカルティズム」論に見られるように、欧米での近代エソテリシズムに関する議論の特徴として、機械論的・交感的宇宙観が挙げられる。機械論的・交感的宇宙観には個々の存在物どうしの相互作用を可能にする「力」「波動」、あるいはそれを伝達させるための「媒体」(何らかの流体や微小物質が想定される)の概念が必要になるが、日本の霊術・精神療法にはしばしば相互作用は「念ずればおのずから起こる」という発想が見られ、必ずしも「力」「波動」「媒体」についての説明が必要とされなかった。このことを念頭に、霊気療法の「霊気」とはなにか、また科学思想史上または通俗科学言説における放射線(ラジウム)との関係はいかなるものかが議論された。
第一報告では臼井霊気療法における「(心身から発する)気と光」=「霊気」という生命エネルギーの発想がどこに由来するのかが論じられた。「霊気」の言葉自体は霊術・精神療法において古くからの用例があり、その中には玉利喜蔵など、近世儒学の系譜に連なるものもある。しかし臼井霊気療法と関連が深いのは特にニューソートの影響を受けた「プラナ療法」「アウラ療法」であることが示唆された。第二報告では、放射線の研究が刺激した未知の力に対する想像力が、錬金術やスピリチュアリズムへの関心と重なりあっていたことを指摘。日本においても放射線が知られるようになった20世紀ごろから、「精神作用」と「ラジウムの放射作用」を類似するものと表現する言説が広く見られるようになり、「千里眼」の説明や、ラジウムの霊的能力への期待となって表れた。のちにはラジウムが心身に霊妙な作用をおよぼすことを期待した温泉などのブームも起こった。
コメントでは、科学思想史の視点により物質や力の表象のされ方とその背景にある思想について整理がなされた上で、日本へのそれらの概念の導入のされ方が論じられた。また、霊術/精神療法における「生命エネルギー」についても、「人体から発するもの/世界に遍在するもの」のアイデアが混在していることが指摘され、それらと関連する科学史上の概念や、それらが輸入された時期の問題など、新たな課題が見出された。